Clinical Question:骨粗鬆症の治療薬
■骨粗鬆症とは
骨強度(骨密度+骨質)の低下により、骨折リスクが上昇する骨格疾患。要因の約70%は骨密度に関連するため、定量化可能な骨密度を主要指標として評価します。骨代謝は本来、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成の均衡で保たれますが、このバランスが崩れ吸収が優位となった状態が骨粗鬆症です。最も頻度が高いのは原発性(閉経後)骨粗鬆症。一方で、栄養障害や薬剤などが原因の続発性骨粗鬆症もあり、鑑別に配慮が必要です。
■脆弱性骨折とは
骨強度の低下により、軽微な外力で発生する非外傷性骨折の総称。脊椎圧迫骨折の平均年齢は77歳、大腿骨頸部骨折は81歳とされます。特に大腿骨近位部骨折は、1年生存率81%、5年生存率49%とQOLと予後に重大な影響を及ぼします。大腿骨近位部骨折や椎体骨折は予防の最重点です。
■治療開始の目安
- 大腿骨近位部骨折または椎体骨折の既往
- 骨量減少(骨密度低下)が明らか
- FRAX®の10年骨折リスクが高値
- 家族歴を含む臨床要因から高リスクと判断
■薬剤の全体像(吸収抑制/形成促進)
薬剤は大別して「骨吸収抑制」と「骨形成促進」。多くは椎体骨折抑制のエビデンスを有しますが、大腿骨近位部骨折の抑制が明確な薬剤は限られる点に注意が必要です。
ビスホスホネート
- 作用:骨に沈着し破骨細胞のアポトーシスを誘導→骨吸収低下。
- 効果:アレンドロン酸/リセドロン酸/ゾレドロン酸は椎体+大腿骨近位部骨折を抑制。
- 併用:ビタミンD製剤の併用が有用。
- 安全性:高度腎障害では低Ca血症に注意。長期で非定型大腿骨骨折・顎骨壊死に留意。経口は5年を目安に再評価。
抗RANKL抗体(デノスマブ/プラリア)
- 投与:6か月に1回皮下注。
- 効果:BPより強力な骨吸収抑制。椎体+大腿骨近位部の骨折抑制エビデンスあり。
- 併用:Ca・VitD補充(デノタス等)。CKDでは活性型VitD併用を検討。
- 注意:中止後リバウンド回避のため、BPでブリッジする後療法が必須。
SERM
- 作用:骨のエストロゲン受容体にアゴニストとして作用→骨吸収を抑制。
- 効果:椎体骨折は抑制するが、大腿骨近位部への予防効果は不十分。適応選択に注意。
副甲状腺ホルモン(PTH)製剤
- 作用:間歇投与で骨形成を促進、疼痛を伴う椎体骨折に有用。
- 適応:骨折リスクが高い骨粗鬆症。診断には厳密な評価が必要。
- 期間:通算24か月まで。終了後はBPまたはデノスマブで後療法。
抗スクレロスチン抗体
- 作用:骨形成促進+骨吸収抑制の二重作用。
- 効果:大腿骨近位部骨折の抑制エビデンスあり。12か月終了後は吸収抑制薬へ逐次療法。
- 禁忌:過去1年以内の虚血性心疾患/脳血管障害。薬価が高く、高リスクへ適応。
補助療法:活性型ビタミンD₃製剤
- 作用:骨吸収抑制+腸管でのCa吸収促進。
- 留意:エルデカルシトールは効果が高いが高Ca血症に注意。CKDでは別製剤を検討。
■まとめ
予後とQOLに直結する椎体・大腿骨近位部骨折の予防が最重要です。大腿骨近位部を抑える薬剤(BP/デノスマブ/ロモソズマブ)を軸に、病態とリスクで逐次療法を設計することが推奨されています。特に頻度が多い大腿骨近位部骨折予防は一部の薬剤のみが適応になっているため、各薬剤の特性を理解した上で病態に基づいた逐次療法が必要となります。
ゆみのハートクリニック
前田 まゆい