Clinical Question:骨折・転倒を食い止める
■ 15件のうち、7件が転倒・骨折が原因の入院であった。
1月のわかばハートクリニックでの入院件数は15件で、そのうち7件が転倒または骨折によるものでした。このことから、在宅患者さんにとって転倒・骨折は非常に身近なリスクであると改めて感じました。
骨粗鬆症の有病率は80歳代女性では50%を超えており、訪問診療で関わるADLの低下した患者さんではさらに高いと考えられます。骨折は寝たきりの原因の第3位であり、認知症・脳血管疾患に次ぐ要因となっています。健康寿命と平均寿命の差は約10年開いており、この状況が続いています。骨折予防はこの差を縮めるための重要な鍵の一つです。
■ 骨折連鎖を早期に食い止める
骨折のもたらす影響には、著しいQOLの低下、健康寿命の短縮、生命予後の悪化と甚大です。昨日まで歩いていた患者さんが、急にトイレに行けなくなることもあり、尊厳にもかかわって来る問題です。痛みや受傷の自覚がないまま椎体骨折が起こり、身長が縮んで背中が曲がっていく「いつの間にか骨折」から始まり、姿勢の変化で転倒しやすくなり、橈骨遠位端骨折、さらには大腿骨近位部骨折へとつながる----これが「骨折連鎖」です。この連鎖を一つでも早い段階で食い止めることが重要です。
骨粗鬆症治療フローチャートでは、大腿骨近位部骨折または椎体骨折があれば骨密度測定を待たずに薬物療法を開始できます。それ以外の脆弱性骨折では骨密度の値をもとに治療を開始する必要がありますが、在宅では骨密度測定ができないことが一つのネックです。病歴に「圧迫骨折あり」「大腿頸部骨折の既往あり」とさらっと書いてある場合も、それ自体が治療適応となりますので見逃さないことが大切です。また、デノスマブ(プラリア)のような半年に1回の注射製剤は、入退院のタイミングで途切れやすいため注意が必要です。
■ 在宅でできるスクリーニング
在宅で骨密度が測定できないからこそ、スクリーニングツールの活用が重要です。WHOが提唱するFRAXは10項目で今後10年の骨折発生リスクを予測し、15%以上がハイリスクとされますが、75歳以上の女性ではほぼ全例が該当するため、高齢女性への適用は注意が必要です。OSTAはアジア人を対象にした簡便な計算式で、体重と年齢だけで算出できます。値が-1以下であればリスクありとされます。
「ワンツーチェック」は患者さんにも理解しやすいスクリーニングです。壁に背をつけて立ったとき後頭部が壁につかなければ円背あり、25歳頃と比べて身長が低下していれば骨粗鬆症の可能性ありと判断します。これらのスクリーニングで引っかかった患者さんには、可能であれば骨密度測定のために受診を勧めて治療につなげていくことが大切です。
簡易的に測定ができる、定量的超音波測定法(QUS)もありますが、現状この数値を根拠とした治療は保険診療として認められておりません。
■ 二次性骨粗鬆症、転倒リスクを高める薬にも注意
ステロイド(プレドニゾロン)の長期使用による骨粗鬆症や、乳がん・前立腺がんのホルモン療法に伴う骨粗鬆症も見落とさないようにする必要があります。転倒リスクを高める薬剤(Fall-Risk Increasing Drugs)も多く、ベンゾジアゼピン系薬や降圧薬なども転倒のリスクを上げます。ポリファーマシーの観点から、本当に必要なものに限って使用することが大切です。
視力低下も転倒リスクの一因であり、在宅患者さんでは眼科治療が難しい場合もありますが、意識しておく必要があります。整形外科的な疼痛への対応で動きやすい体を作ること、爪白癬は在宅患者さんの有病率が高く、転倒リスクを高めることが知られています。変形や皮膚の盛り上がりによる感覚の低下が関係していると言われており、「よくあること」として放置せず治療につなげることが大切です。
■ まとめ
訪問診療を行っている患者さん、特に女性に関しては骨粗鬆症があるものとして対応していく必要があります。FRAXやOSTA、ワンツーチェックでスクリーニングを行い、リスクの高い患者さんには積極的に骨密度計測と治療につなげていく必要があります。骨折の既往がある場合は治療適応として見逃さず、骨粗鬆症治療薬が途切れていないかも確認するようにしたいです。転倒リスクを上げる薬をなるべく使わないことも、日常の診療の中で意識していきたいと思います。
わかばハートクリニック 院長
武居 講




