Clinical Question:小児から成人まで、在宅医が押さえたい先天性心疾患の全体像

YUMINO education program2025年12月04日

■はじめに

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近年、先天性心疾患の新生児期・小児期の手術成績も改善し、多くの方が成人期を迎えることができるようになってきています。成人期の先天性心疾患の患者は国内でおよそ60万人、今後も年間約1万人ずつ増えていくと言われています。
先天性心疾患は「生まれつき心臓や血管に構造異常がある状態」であり、出生児の約1%にみられます。小児期に手術を受けた患者が成人期に達し、在宅や地域で治療や支援を受けながら生活するケースも増えています。

代表的な先天性心疾患は以下のとおりですが、実際には非常にバリエーションが多岐にわたります。

●心房中隔欠損症(Atrial Septal Defect: ASD)
●心室中隔欠損(Ventricular Septal Defect: VSD)
●動脈管開存症(Patent Ductus Arteriosus: PDA)
●大動脈縮窄症(Coarctation of Aorta: CoA)
●ファロー四徴症(Tetralogy of Fallot: TOF)
●房室中隔欠損症(AtrioVentricular Septal Defect: AVSD)
●両大血管右室起始症(Double outlet right ventricle: DORV)
●完全大血管転位症(Transposition of Great Arteries: TGA)
●三尖弁閉鎖症(Tricuspid Atresia: TA)
●左心低形成症候群(Hypoplastic Left Heart Syndrome: HLHS)
●修正大血管転位症(congenitally corrected TGA: ccTGA)
●Ebstein病 など

先天性心疾患は手術により段階的に修復していく必要がある場合が多く、その手術方針は基本的には二心室修復(心内修復術 Biventricular Repair)を目指す群と、単心室患者で最終的にFontan循環を目指す群に分かれます。(上記以外に、それほど数は多くないですがGlenn手術をして心内修復術を行うOne and One half repairという1.5心室修復というものもあります。これは主に右室が通常より小さい場合や右室機能が低下している際などに用いられることがあります。)

患者さんの疾患名を確認することと同時に、二心室循環なのか単心室循環のどちらかを知っておくことが重要です(複雑心奇形で疾患名が多数ついていたり、治療途中の段階でどちらともいえない循環の場合もあります)

 

■二心室修復の基本構造

二心室修復(心内修復術)とは、右室から肺、左室から全身へと血液を送る正常循環の再建を目指す手術戦略です。基本的にはこの二心室修復が可能かどうかが、初期の判断となります。
例えば、心房中隔欠損や心室中隔欠損では欠損孔を閉鎖することで正常循環に戻りますし、ファロー四徴症では、心室中隔欠損の閉鎖と肺動脈狭窄の解除を行うことができれば、通常の二心室の血行動態へ改善します。

完全大血管転位症は、右室から大動脈、左室から肺動脈がでている病態で、IIII型に分類されます。

Ⅰ型、Ⅱ型の多くはJatene(ジャテ-)手術(Arterial Switch Operation)により大動脈と肺動脈を付け替えて冠動脈を移植して血行動態を再建し、ニ心室修復術を行います。
Jatene手術の成績が不安定であった時期には、Senning(セニング)手術やMustard(マスタード)手術といった心房内血流転換手術が行われておりました。
しかし、遠隔期の体心室の右室機能や上室性不整脈の問題で近年は修正大血管転位症以外の疾患では用いられることはほぼなくなってきています。
現在ではJatene手術の治療成績も安定してきており、新生児期の血行動態再建を目指します。

III型の場合は、肺動脈狭窄があるため新大動脈として使用することが難しく、Jatene手術が困難であり、Rastelli(ラステリ)手術(心室中隔欠損閉鎖+弁付人工血管などにより右室流出路再建術)を行い、ニ心室修復術を行うことになります。このRastelli手術は他疾患でも便宜的に用いられることが多い術式です。特に右室流出路再建で人工物を使用している際には、人工物や弁機能の劣化が進み、継続的な評価や治療介入が必要となることが多いです。

その他、動脈管開存症、房室中隔欠損症、大動脈縮窄症、両大血管右室起始症などについても例外はありますが、まずは二心室修復術を考えていくことになります。

 

■単心室患者とFontan手術

単心室の代表疾患:
●三尖弁閉鎖症(TA):三尖弁は閉鎖し右室が低形成となり、左室のみが発育している。
●左心低形成症候群(HLHS):左室・大動脈・冠動脈の形成不全で最も重症な先天性心疾患の一つです。単心室患者さんの場合、最終的な修復術はFontan(フォンタン)手術です。

流れは以下の段階を踏んでいきます。

1.Glenn手術:上大静脈(SVC)を肺動脈に吻合し、上半身の静脈血を右心房を介さずに肺動脈へ流す(上半身の血流は全て酸素化されることになる)

2.Fontan手術:下大静脈(IVC)も肺動脈へ人工血管を用いて吻合し、これによりGlenn後の状態と含めて、全ての静脈血を直接肺動脈へ流れるようになる。

これにより理論上は心臓内に入る血液は全て酸素化されている血液となる。
上記の後、肺動脈への血流はポンプ機能を持たず圧格差(静脈圧)に依存する特殊な循環となります。
段階的にGlenn手術→Fontan手術に向かうには、十分な肺動脈の発育、適切な肺動脈圧と低い肺血管抵抗が不可欠であり、その為の準備として内科的治療や手術も行われます。Fontan手術が終われば、SpO2はほぼ100%に近づくことになり、チアノーゼが改善します(実際には側副血行路が形成されてしまうなどの問題でSpO2が通常より少し下がることもあります)

Fontan手術は低酸素血症を改善しますが、特殊な循環ゆえに遠隔期に合併症を伴うことがあります。


■Fontan術後の遠隔期の課題

Fontan循環は特殊な血行動態であるため、術後長期的に以下の合併症リスクを伴います。

●不整脈(心房性不整脈、洞機能不全)
●心機能低下(EF低下は約30%、拡張障害を70%で認めると言われている。右室が体循環を担う症例で特に発生しやすい)
●人工血管導管の血栓や閉塞(肺動脈血流が拍動を持たないため)
●肝障害(FALD:Fontan-associated liver disease)→肝硬変や肝がんのリスク
●タンパク漏出性胃腸症(PLE)
低酸素血症(側副血行路形成による)

 

■診療時の病態把握のポイントと注意点

【血行動態の把握】

●二心室系か単心室系か
●主たる心室は右室か左室か
●治療のステージはどこか(心内修復前、心内修復後、Glenn手術前or後、Fontan手術後)
●肺動脈弁(右室流出路)は人工物か(Conduit/人工弁の場合、IE・耐久性に注意)
●肺血流は何により供給されているか(順行性血流、Glenn、ブラロックタウジッヒシャント等)
●残存シャントや弁逆流などの心内残存病変の有無

→心不全をきたす場合には上記を踏まえ、血行動態的問題点はどこにありそうか。

【実際の管理】

空気塞栓リスク
心内シャントが残存している場合、静脈ラインからの空気混入が脳梗塞・心筋梗塞のリスクとなるため、採血・点滴時の空気混入に十分注意が必要です。

至適SpO₂の解釈
チアノーゼのある患者では、SpO₂が平常時の10%程度低下していても日常生活が保たれることがあります。根治術後は90%以上の数値が望ましいですが、根治術前の症例ではSpO2が高値の場合、肺循環に血流が偏り体循環が低下している可能性があるため注意が必要である。慢性心不全の方の至適体重のように、患者さん毎の至適SpO2を把握することが重要であると考えます。

単心室患者の急変時対応
Fontan/Glenn
患者は前負荷低下、頻脈、陽圧換気等で容易に状態悪化します。常に適切な肺動脈圧や低い肺血管抵抗を目指すことが肝要です。
AT
(心房頻拍)などの上室性頻拍が発生した場合は、鎮静やDC、アミオダロン静注が必要になることがあります。急な腹水増加や肝酵素の上昇、浮腫や低タンパク血症はFontan循環不全のサインであり、原因精査が必要です。


■まとめ

先天性心疾患は小児の疾患にとどまらず、生涯を通じフォローが必要な慢性疾患へと変化しています。小児期の根治治療後も継続的なフォローが不可欠です。
また新たな内服薬、カテーテル治療や手術治療も出てきている分野であり、諦めずに治療を継続することも大切です。
在宅・外来で出会う成人先天性心疾患患者の背景には、こうした特殊な循環と長い治療経過があることを理解し、柔軟に診療にあたることが重要です。

ゆみのハートクリニック三鷹
桑原 優大

 

 

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