Clinical Question:医療従事者の心理的ケア 

YUMINO education program2025年08月25日

医療従事者の心理的問題について 

緩和ケア学会の試験勉強をしている際に、医療従事者の心理的なケアについてのテーマがありました。患者さんやご家族に対する内容が多い中、医療従事者へフォーカスが当たっているテーマでしたので、今回取り上げています。 

 

医療従事者の心理的問題 

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医療従事者が抱えるストレスは、私たち自身のメンタルヘルスを維持するうえでも、良質なチーム医療を維持するうえでも常に配慮するべき課題です。 

特に終末期においては、患者さんの死に伴うご家族の悲嘆への対応など、様々な難しい問題に寄り添う必要があります。そうした困難な場面が積み重なることで、「燃え尽き(burnout)」が生じやすいと言われています。 
 

医療従事者の燃え尽きの現状 

緩和ケアに従事する医療者を対象としたオランダの調査において、約3分の2が高いレベルの燃え尽きを経験し、約3分の1は非常に高いレベルの燃え尽きを経験したと報告されています。国や文化を問わず、医療従事者にとっては普遍的な問題であることが示唆されています。 
 

ストレスの機序について 

そもそもストレスとは、「人間と環境との関係において、ある状況がその人の持っている能力や資源に負担をかけたり、幸福を脅かしたりすると評価される状態」と定義されています。 

一方で、目の前にあるものや、起こっている出来事が同じであっても、人によってとらえ方は様々です。日常場面で生じる個人の捉え方(考え方)を『認知』と呼びます。同じ患者さん対応であっても、医療従事者によって感じるストレスの度合いが異なるのはこの認知の違いが影響していると考えられます。 
 

コーピングについて 

困難な状況やストレッサーに出会った時に個人がとる対処方法や問題解決方法のことをコーピングと呼びます。コーピングには大きく分けて2種類があり、人は無意識に自分に合った方法でコーピングをしていると言われています。 

  • 問題焦点型コーピング:問題の原因に直接働きかける方法(勉強、カンファレンスをして対応する) 
  • 情動焦点型コーピング:感情的な反応を調整する方法(思考方法を変えて対応する) 


燃え尽きとは何か 

燃え尽きは、対人関係を扱う専門職におけるメンタルヘルスで注目されるようになった概念です。医療従事者に認められる燃え尽きは、「長時間にわたり患者に援助を行う過程で、心理的エネルギーが絶えず過度に要求された結果、極度の心身の疲労と感情の枯渇をきたすことを主とする症候群」と定義されることが多いです。 
 

燃え尽きによる影響 

  • 身体面:疲労、心身の消耗、頭痛、体重減少 
  • 精神面:不安感、焦燥感、無力感、抑うつ 
  • 仕事面:患者への思いやりが無くなる、批判的になる、転職・離職、チームとの関わりを避けた     くなる 

など、多くの悪影響があると言われています。業務上の要因としては、患者さんとの関わりが強すぎることや感情表出が強い患者さんやご家族への対処(怒りや不満)、仕事への満足度が低いこと、チームのスタッフが少ないこと等の因子が指摘されています。 
 

6つの要素による評価 

近年では医療従事者のストレスを、個人と職場環境に関する6つの要素におけるギャップで評価することが多くなっています。ギャップが大きければ大きいほど、燃え尽きの症状を呈しやすいと考えられています。 
 

  1. 仕事上の負荷 
  1. コントロール 
  1. 報酬 
  1. コミュニティ 
  1. 公平性 
  1. 価値観 
     

介入方法の現状 

ストレス要因に対応した対人関係に注目した介入方法は開発されつつありますが、燃え尽きを予防するうえで有効性が示された介入方法は現時点では存在せず、その途上にあります。海外においては、マインドフルネスの理論に基づいたストレス低減法をがん領域で勤務する看護師を対象に施行した報告がありますが、まだ医師に対する報告はほとんど挙げられていないのが現状です。 
 

コミュニケーションスキルトレーニング 

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コミュニケーションスキルトレーニングに関しては、情緒的消耗を低減したとの報告や、燃え尽きのスコアが減少したとする報告も出ています。実際に見学した内容としては、患者役の方により医師が解答に窮する状況も再現されており、実施する側としては大変な研修でしたが勉強になる内容だと感じました。 
 

考察 

医療従事者の抱えるストレスは、私たち自身のメンタルヘルスを維持するうえでも、良質なチーム医療を維持するうえでも重要な問題と言われています。医療従事者が燃え尽きを抱えていると、適切な医療の提供にも影響を及ぼします。 

特に患者さんの終末期においてはご家族の悲嘆への対応など、様々な難しい問題があり、ストレスから生じる燃え尽き(burnout)があることを理解しておく必要があります。 

ストレス要因に対応した対人関係に注目した介入方法は開発されつつあり、生涯学習的な観点から捉えることで職業人として成長することにつながり、それ自体が業務を行ううえでの心理的ケアのためのコーピングの資源となりうると考えられます。 

患者さんの難しい状況に対応することは、がん末期の方以外でも必要になっており、今後より医療職に求められるスキルなのではないかと考えております。今後も継続して学習をしていく必要があると感じる部分でした。 


のぞみハートクリニック
嘉悦 泰博


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参考文献 

  • Dijxhoorn A et al. J Pain Symptom Manage 2021. 
  • Lazarus RS et al. ストレスの心理学 1998. 
  • Maslach C et al. J Occup Behav 1981. 
  • Cella DF et al. J Clin Oncol 1993. 
  • Johansson N et al. J Am College Health 1991. 
  • Fallowfield L et al. Lancet 2002. 



 

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