Clinical Question:高血圧診療におけるクリニカル・イナーシャ(Clinical Inertia)とは?

YUMINO education program2021年11月05日

コラム用central figure 岡田担当.jpg

我が国では、高血圧症の方は約4300万人と推計されています。国民の収縮期血圧平均値 4mmHg低下させることにより脳卒中死亡数は年間約 1万人減少し、また、冠動脈疾患の死亡数は年間約 5千人減少すると推計されています。(1)

 そのため、日々の診療で高血圧患者さんに対し適切な血圧コントロールを行うことが、脳卒中や冠動脈疾患による死亡を減らしていくと考えられます。

 しかしながら、現状としては、我が国における血圧の管理状況は決して良くないということが過去に報告されています。その論文では、高所得12カ国の血圧の管理状況について示されています。具体的には、各国の大規模調査のデータを用いて約52万例での解析において40~79歳における140/90㎜Hg (診察室血圧)未満への降圧目標達成率は、日本、フィンランド、アイルランド、スペインにおいて低値であったと示されています。

先進国の中で日本の高血圧の管理状況は決して良くないということが明らかになりました。(2)

 

 我が国における高血圧の管理状況が良くない理由についてはいくつか考えられますが、中でも最近注目されているのが、クリニカル・イナーシャ(Clinical Inertia)になります。

"クリニカル・イナーシャ"とは、直訳すると"臨床的な惰性 or 慣性" ということになります。

 

 では、高血圧診療において、"クリニカル・イナーシャ"というのはどういうことでしょうか?

 最新のガイドラインで示された降圧目標に達しておらず、下げた方が良いと考えられる状況であるにもかかわらず、治療が強化されないでそのまま続けてしまう場合、また、二次性高血圧や睡眠時無呼吸症候群など治療抵抗性の高血圧の原因についてしっかりと検索しないままに治療継続してしまう場合などが考えられます。つまり、服薬コンプライアンスの確認と服用できていない場合の理由を十分に確認できていないなど治療全体の課題を含めて"クリニカル・イナーシャ"というわけです。

 

 それでは、"クリニカル・イナーシャ"はどのような状況で生じるのでしょうか?

  • 降圧目標近くまで血圧が下がると、医師・患者さんともに、許容範囲と考えてしまうこと
  • 血圧を下げ過ぎると、脳や冠動脈血流量低下を心配する医療者が多いこと
  • 仮面高血圧、白衣高血圧などで何が本当の血圧なのかという疑問があること
  • 多剤併用療法に伴う治療費に対して配慮していること

などが原因として挙げられています。(3)

 すなわち、"クリニカル・イナーシャ"は、患者側の問題、主治医側の問題、医療制度の問題、社会経済的問題など様々な要因が関与しているということになります。

 

 では、どのようにすれば良いのでしょうか?

  • 行政、マスコミ、産業界や学会などが国民に対して正しい情報を提供して啓発していくこと
  • チーム(医師・看護師・薬剤師・管理栄養士など)による高血圧患者に対する教育
  • 高血圧診療を行っているプライマリーケア医に対する意識改革

などが重要ではないかと考えます。

今後の高血圧診療では、この"クリニカル・イナーシャ"を常に意識しながら検査・治療していこうと思います。

 

のぞみハートクリニック

岡田健一郎

 

参考文献
(1) JSH 2019高血圧治療ガイドライン
(2) Lancet. 2019;394:639-651.
(3) Medicine 2018;97:25-34.

 

YUMINO'sコラムTOP

年別

カテゴリー別

03-5956-8010

<受付時間>9:00~18:00

フォームからのお問い合わせはこちら