Clinical Question : 訪問診療で出会うアルツハイマー型認知症

YUMINO education program2026年04月09日

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高齢者における認知症の現状(2022年時点)

2022年のデータによると、65歳以上の高齢者のうち軽度認知障害(MCI)と認知症を合わせると約27.8%、おおよそ3人に1人に認知機能の問題があるといわれています。訪問診療の対象となる患者さんは平均年齢がさらに高いため、実感としては2人に1人程度の頻度で認知機能の問題に直面している実感があるかと思います。

認知症全体の約7割を占めるのがアルツハイマー型認知症です。残りは多発性脳梗塞などを背景とする血管性認知症が約20%、レビー小体型認知症(幻視/パーキンソニズム)が約4%、前頭側頭型認知症(人格変化/反社会的行動)が約1%と続きます。今後2040年に向けて認知症患者数は増加が予測されていますが、有病率自体はすでに減少に転じています。

診断ーMMSEが難しい患者さんへの3つの質問

アルツハイマー型認知症の評価は、MMSEや長谷川式スケールによる認知機能検査から始まります。MMSEでは2427点がMCI23点以下が認知症の目安です。その後MRIVSRADで海馬萎縮(Zスコア2以上が有意)を評価し、病院では脳血流シンチグラフィーやアミロイドPET、髄液検査へと進むこともございます。訪問診療ではMRIまで実施できるかどうかが現実です。なかにはMMSEの施行自体が困難な患者さんもいます。

そのような場面で役立つのが、3つの質問によるスクリーニングです。「最近困っていることはありますか?」「現在楽しみはありますか?」「最近気になるニュースはありますか?」--この3つの質問だけで、多くの場合に認知症の疑いをある程度見立てることができます。たとえば「いろいろ困っています」「晩酌が楽しみ」「ニュースで大谷翔平の活躍を見ていました」と具体的に答えられる方は、加齢による物忘れの範囲内と推測できます。

一方、「何も困っていません」「いたって健康です」「楽しいことはない」と答え、ニュースを問うと後ろの家族に目を向けて答えを求めるーこの「ヘッドターニングサイン」が出現する場合は認知症の可能性が高いと推測することができます。
「困っていることがない」「気になるニュースを答えられない」「振り返り動作(HTS)」の3つが揃うと、最終的には83.8%がアルツハイマー型認知症と診断されると言われており、診察室で自然な会話として行える、精度の高いスクリーニング法です。なお「楽しみがない」という回答はうつや前頭側頭型認知症・レビー小体型認知症との感度が高く、情報として別途意識しておきます。認知症に限ってですが、「困っていることがない=介入する必要がない」というわけではないと言えます。

予防ー修正可能なリスク因子は?

「どうすれば認知症を予防できますか」という質問は、外来でも訪問診療でも非常に多く受けます。2024年のランセットの報告では、認知症の45%が修正可能な危険因子への介入によって予防または発症を遅らせることができるとされています。今回の改訂で新たに加わったリスク因子として、高LDLコレステロールと視力低下が挙げられています。

これらを整理すると、認知症予防のための行動は人生のステージごとに描くことができます。若い頃は教育機会を大切にする。中年期以降は適度な運動を継続し、高血圧・糖尿病・脂質異常症など動脈硬化のリスク因子を管理する。そして聴力と視力のケアを怠らず、老年期には社会的なつながりと孤立の防止、仲間と過ごす時間に目を向けるーこれが現時点で最も根拠のある認知症予防の姿です。

薬物治療① コリンエステラーゼ阻害薬の使い方と落とし穴

アルツハイマー型認知症の中核となる治療は2つあります。一つはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミンなど)です。脳内のアセチルコリンが分解されるのを阻害することで濃度を維持し、認知機能を保つ薬です。訪問診療では11回投与のドネペジル(アリセプト)が使いやすく、貼付剤のドネパッチ(週2回交換)も選択肢として有用です。嚥下困難な患者さんや服薬管理が難しい環境では、貼付剤への切り替えを検討していきましょう。

注意したいのは、漫然と長期投与を続けることで、アセチルコリン濃度が過剰になり患者さんが怒りっぽくなる場合があるという点です。ドネペジル内服中に周辺症状(BPSD)が出現した際、すぐに抗精神病薬に手を伸ばす前に、まずドネペジルの減量・中止を検討することがガイドラインでも推奨されています。

薬物治療② メマンチンと、アミロイドβ抗体薬という新たな選択肢

もう一つの中核治療はNMDA受容体拮抗薬のメマンチンです。グルタミン酸による過剰なNMDA受容体刺激が神経興奮毒性をもたらすことを防ぎ、神経保護作用を示します。過剰な神経興奮を静める効果があり、BPSDへの効果も期待される薬です。

近年、アルツハイマー型認知症の病態の根幹であるアミロイドβをターゲットにした抗体薬が登場しています。日本では現在2剤が承認されており、レカネマブ(レケンビ、2週に1回点滴)とドナネマブ(ケサンラ、4週に1回点滴)です。対象はMMSE20点以上のMCIまたは軽度認知症の段階であり、脳出血の既往がある方は禁忌です。主な副作用はインフュージョンリアクションと、脳浮腫・脳出血(ARIA)です。

これらの薬剤の効果として現時点で示されているのは、認知機能低下の速度を緩やかにすること--現時点では、約半年分の発症・進行を遅らせる効果です。根治薬ではなく、進行を遅らせる薬であること、全ての認知症の患者さんが適応となるわけではない事などを患者さんや家族に丁寧に伝えることが重要です。早期診断・早期介入の意義が改めて問われる時代に入っています。

■ BPSDへの対応ー新ガイドラインと、レキサルティの登場

BPSDを疑う前に、まずは「せん妄でないか」「身体症状が原因でないか」「薬剤性でないか」「レビー小体型認知症ではないか」を確認することが大事です。これらが除外されて、初めて抗精神病薬の検討に入ります。BPSDはアルツハイマー型認知症の在宅管理において最も対応に苦慮する領域の一つです。症状はCMAICohen-Mansfield Agitation Inventory)の評価尺度をもとに整理すると理解しやすくなります。
叩く・暴言などの言語・身体的攻撃行動(ファクター1)、徘徊などの身体的非攻撃行動(ファクター2)、繰り返しの訴えや不満の表明といった言語的非攻撃行動(ファクター3)の3つです。注目すべきは、ファクター3を放置するとファクター1につながりやすいという関連性と、徘徊(ファクター2)は薬物介入が特に難しいファクターであるという点です。

BPSDの治療には、適応外使用ではありますが、リスペリドンとクエチアピンがこれまで広く使われてきました。リスペリドンは錐体外路症状の発現により転倒のリスクがあること、クエチアピンは過鎮静となることがあり、また、糖尿病では禁忌となります。こうした状況の中で、アルツハイマー型認知症のBPSDに対して唯一の適応承認を持つ薬として、レキサルティが登場しました。セロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリンを調節する"セロトニン・ドーパミン・アクティビティ・モジュレーター"という作用機序により、鎮静がかかりにくいという特徴があります。前頭前野の高次精神活動と扁桃体の情動機能のバランスを整えるという観点から、攻撃性や焦燥感を中心としたBPSDへの効果が期待されます。

おわりにー「チームで認知症と向き合う」時代へ

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令和61月に「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が施行されました。この法律は本人参画と共生社会の実現を柱としており、BPSDへの対応においても「チームで取り組む」ことが明示されています。薬を選ぶことと同様に、誰がどのように関わり、どのように生活を支えるかという視点が、在宅での認知症ケアの中心になっていきます。


ゆみのハートクリニック 医師
宇野 洋美


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