Clinical Question:心不全治療薬としてのsGC刺激薬

YUMINO education program2020年12月18日

今回は、新たな心不全治療薬として期待されている可溶性グアニル酸シクラーゼ(soluble guanylate cyclase:sGC)刺激薬について取り上げます。米国では来年には心不全治療薬として承認される予定であり、本コラムでも以前取り上げているSGLT2阻害剤やARNiに続く新たな心不全治療薬として期待されており、これまでのエビデンスを踏まえて概説します。

 

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sGCとは

sGCは、内皮細胞由来の一酸化窒素(NO)に対する受容体であり、心肺系における重要な酵素である。このNO-sGC 経路の活性化により、血管緊張、細胞増殖、線維化、及び炎症に重要な役割を果たすシグナル伝達分子である環状グアノシン3',5'-一リン酸(cGMP)を産生し、血管拡張作用やリモデリング予防を促進する。

このNO-sGC-cGMP経路にかかわる薬剤として、心不全に対して古くから使用されている硝酸剤はNOを生成し血管拡張による前負荷・後負荷軽減が期待されるが、耐性の問題があり、長期的な有効性は示されていない。肺高血圧治療薬、勃起不全薬として使用されているPDE5阻害剤は、cGMPを分解するPDE5を阻害することによりcGMP濃度を上昇させる血管拡張剤であるが、cGMPはPDE5以外のPDEによる加水分解も受けること、また、心不全はNO産生が重度に低下、欠如する病態ということもあり、これまでの臨床試験において心不全での有用性は認められていない。対して、sGC刺激薬はcGMPの分解を阻害するのではなく、sGC産生を増加させるため、NOに依存せず、心不全や肺高血圧においても有効性が期待されている(Circulation. 2011;123:2263-2273)。また、sGCの内因性NOに対する感受性を増強させる作⽤をもち,慢性⼼不全で低下しているcGMPを補強することにより⼼筋障害や⾎管不全を抑制する作⽤をもつ。

 

心不全とsGC

心不全の病態生理には、NO 産生の減少及び利用率の低下、並びに組織中のcGMP 濃度の低下を伴う内皮細胞機能障害があり、血管拡張反応を減弱させ、前・後負荷を増大させる心不全を悪化の要因となる。HFrEFは心筋細胞に病変の首座があり(心筋不全/心筋リモデリング)、一方でHFpEFは全身の血管内皮機能障害で生じる心不全といわれ、分子生物学的な検討において、HFpEFではNO-cGMP-PKG Pathwayが障害されていることも分かっていることから、sGC刺激薬はHFrEFだけでなく、有効な治療薬のないHFpEFの新たな治療薬としても期待されてきた。

sGC刺激薬の心不全における臨床試験

そのような背景から近年sGC刺激薬による心不全の臨床試験が行われてきた。リオシグアトによるDILATE-1試験(HFpEF)、LEPHT試験(HFrEF)やベルイシグアトによるSOCRATES-REDUCED試験(HFrEF)、SOCRATES-PRESERVED試験(HFpEF)、プラリシグアトによるCAPACITY HFpEF試験は運動耐用能、血行動態やNT-proBNPなどの心不全のサロゲートマーカーをエンドポイントとして実施されたが、いずれも有意な改善は認められなかった(CHEST 2014;146:1274-1285. Circulation. 2013;128:502-511. JAMA 2015;314:2251-62. Eur Heart J 2017;38,1119-1127. JAMA 2020;324:1522-1531)。2020年に入りベルイシグアトによるHFpEFの身体活動制限への効果(VITALITY-HFpEF)、HFrEFの心血管イベントの抑制(VICTORIA)をエンドポイントにした2つの大規模臨床試験の結果が発表された。

VITALITY-HFpEF試験はEF≧45%、NYHAⅡ~Ⅲの慢性心不全789例に対し、ベルイシグアト10mgまたは15mgとプラセボに無作為二重検化で割り付けられ24週後の身体機能(KCCQ PLS)に対する効果を検証した。結果はベルイシグアトの効果は認められず、二次エンドポイントでも有効性はなかった。HFpEFに対する有効性はSOCRATES-PRESERVEDに続いて失敗に終わっている。NOを介さないcGMP増加によるHFpEFに対する有効性は理論的に有望視されたが、過去の硝酸剤やARB、PDE5阻害剤、ARNI同様に有意な結果が得られなかった(JAMA 2020;324:1512-1521)。

一方でHFrEFに対して行われたVICTORIA試験はpositiveな結果が発表されている。NYHA心機能分類II~IVの心不全増悪の既往を有するHFrEF(LVEF <45%)の5050例を対象にベルイシグアト10mgとプラセボの2群に二重盲検化した。観察期間10.8ヵ月(中央値)においてベルイシグアト追加群では一次エンドポイントである心血管死+心不全入院は10%の有意な減少を認めた(HR0.90, 95%CI 0.83-0.98, p=0.02)。1年間のNNTは24であった。心血管死、心不全入院のそれぞれ単独では有意差は認めなかったが、近年HFrEFに有効性が示されたPARADIGM-HF試験(ARNI)やDAPA-HF試験(SGLT2阻害剤)よりもNYHAやNT-proBNP値で重症例が登録されており、心不全標準治療薬3剤(β遮断薬、ミネラルコルチコイド、ACEI/ARB)併用が60%、ARNIが15%投与されている中での結果であり、臨床的意義は高いと考える。サブグループ解析ではNYHAⅠ/Ⅱだけではなく、NYHAⅢ/Ⅳにも有効であり、EFや人種差、ARNI投与の有無でも有意差は認められなかった。一方で腎機能低下例やNT-proBNP高値(>8000)では有効性は乏しいことが示されている(N Engl J Med 2020;382:1883-93.)。

 

sGC刺激薬の標的となるサブグループ

これまでの臨床試験結果より、以下の心不全において新たな選択肢の一つとなると考える。

  • 心不全入院を繰り返すHFrEF(EF<45)
  • NYHAⅠ/Ⅱだけでなく、Ⅲ/Ⅳにも有効
  • NT-proBNP<8000
  • eGFR>30

私見ではあるが、HFrEFとHFpEFの背景比較では一般的にHFrEFの方が若く、男性・冠動脈疾患・喫煙歴が多い。VICTRORIA試験では若年者でより有効性が示されている。冠動脈疾患の頻度や影響についての記載はないが、喫煙や糖尿病などより血管内皮が障害されNO産生低下している冠動脈疾患併存例にはより有効である可能性を考える。

 

医療法人社団ゆみの

医師 芹澤直紀

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